# 『お先にどうぞ』

短編・7分・コメディ。「シガレット」とは無関係のサンプル脚本。
作法は [00-short-film-craft.md](./00-short-film-craft.md) を参照。

一行で言うと: **スーパーの最後の一個の弁当を、見知らぬ二人が「どうぞ」「どうぞ」と譲り合う。
20時まで。**

笑いの「異常」は一つだけ。**譲り合いが、戦いになっている。**それを3段で高める。
反転は「譲っていたのではなく、待っていた」。

## 人物

- **片岡**（54）。営業。ワイシャツ、緩んだネクタイ。丁寧語が過剰。
- **春江**（71）。小柄。買い物カートに白菜が一玉。敬語だが目が笑っていない。
- **ユウキ**（19）。バイト店員。腰に値引きシールのラベラー。口癖は「あ、はい」。

## 仕込み

棚の端の POP「20:00〜 半額」。壁の時計、開始時 19:41。段が変わるごとに、どちらかが
一度だけ時計を見る。互いは見ていない。観客は気づいても気づかなくてもいい。二度目に観ると全部見える。

## 序（0:00〜1:45）

○スーパー・惣菜売場（夜）

　蛍光灯。空になった棚に、弁当が一つ。幕の内。「30%引」のシール。
　左から男の手。右から女の手。同時に伸びて、弁当の1センチ手前で、同時に止まる。
　片岡と春江。目が合う。

片岡「あ、どうぞ」
春江「いえいえ、どうぞ」
片岡「いえ、私は……（弁当を見る）……どうぞ」
春江「お先に」

　二人、手を引く。弁当、棚に一つ。
　棚の端の POP「20:00〜 半額」。壁の時計、19:41。
　片岡、時計をちらっと見る。春江も見る。互いは見ていない。

○同

　片岡、一歩下がる。春江、一歩下がる。二人とも棚を離れない。
　片岡、隣の納豆を手に取って、真剣に成分表示を読む。
　春江、カートの白菜の向きを直す。
　弁当、棚に一つ。
　ユウキ、隣の棚で牛乳の前出しをしている。何気なく二人を見る。

## 破（1:45〜5:15）

○同（19:47）

　片岡、弁当を取る。春江の目が光る。片岡、弁当を春江のカートにそっと置く。

片岡「どうぞ。私は、その、コンビニもありますし」
春江「（弁当を取り、片岡の手に押しつけ）お仕事帰りでしょう。お先に」
片岡「お年寄り……いや、いえ、ご婦人が」
春江「どうぞ」
片岡「どうぞ」

　弁当が二人の手の間を往復する。往復のたびに、声が丁寧になっていく。

片岡「どうぞどうぞ」
春江「いえいえいえ」

　ユウキ、牛乳を持ったまま見ている。
　弁当、棚に戻る。二人、それぞれ半歩、下がる。
　時計、19:50。春江が見る。

○同・レジ（19:53）

　片岡、弁当を持ってレジに来る。後ろに春江。

片岡「（ユウキに）これ、こちらの方の分で。私が払いますので」
春江「（横から財布を出し）いいえ、私が。この方の分です」
ユウキ「あ、はい。……どちらの、あの」
片岡「この方のです」
春江「この方のです」
ユウキ「あ、はい」

　ユウキ、弁当を持ったまま、二人を見る。二人、ユウキを見る。誰も金を出さない。

片岡「……いや、やっぱり、いいです。すみません」
春江「私も、結構です」

　二人、レジを離れる。ユウキ、弁当を持って、取り残される。
　ユウキ、弁当を惣菜の棚に戻しに行く。棚に一つ。
　その後ろを、二人が間隔をあけてついてくる。
　時計、19:55。片岡が見る。

○同・惣菜売場（19:56）

　三人、棚の前。

ユウキ「あ、じゃあ、じゃんけんとかで」

　片岡、春江、頷く。
　じゃんけん。片岡が勝つ。

片岡「あ……いえ、どうぞ」
春江「勝ったんだから、どうぞ」
片岡「いや、こういうのは、二回勝負で」

　二回目。春江が勝つ。

春江「……もう一回」

　三回目、四回目。ユウキ、黙って数えている。

ユウキ「あ、じゃあ、半分に」

　二人、同時に振り向く。

片岡・春江「もったいない」
ユウキ「あ、はい」

　時計、19:58。
　二人が同時に時計を見て、同時に目を逸らす。ユウキだけが、それを見た。

## 急（5:15〜7:00）

○同（19:59）

　誰も何も言わなくなる。
　片岡、納豆を見ている。春江、白菜を見ている。ユウキ、二人を見ている。
　ユウキ、時計を見る。POP「20:00〜 半額」を見る。二人を見る。
　分かる。
　ユウキ、腰のラベラーに、ゆっくり手を伸ばす。
　秒針。
　20:00。
　ユウキ、弁当に「半額」のシールを、貼る。
　シールが弁当に触れた瞬間、左右から二本の手が伸びて、弁当を掴む。
　引く。引く。
　誰も「どうぞ」と言わない。
　蓋が外れる。ご飯が棚に落ちる。
　沈黙。
　ユウキ、無言で、崩れた弁当を二人の手から抜き取る。バックヤードへ。
　片岡と春江、空の棚の前。目を合わせない。
　時計、20:01。
　バックヤードのドアが開く。ユウキが台車を押してくる。山盛りの弁当。全部に「半額」。
　棚に並べていく。二十個。
　片岡、一つ取る。春江、一つ取る。
　互いを見ない。
　反対の方向へ歩いていく。
　ユウキ、並べ終わって、二人の背中を見る。

ユウキ「……あ、はい」

　暗転。

## どこで何を使ったか

- **5秒の掴み**は「1センチ手前で止まる二本の手」。一つの弁当、二人、で状況説明が終わる。
- **異常は一つ**。譲り合いが戦いになっている、だけ。それを「棚で往復」「レジで互いに払おうとする」
  「じゃんけんで勝ちを拒む」の3段で高めた。段が上がるごとに、巻き込まれる人（ユウキ）の
  関与が深くなる。
- **善意の行動が事態を悪化させる**。譲れば譲るほど、二人は棚から離れられなくなる。
- **カセ**は、物（一つしかない弁当）、時間（20時）、掟（譲り合いの作法）、秘密（本当の目的）の四つ。
- **反転**は 20:00 の二本の手。丁寧語が全部消えて、「どうぞ」を一度も言わずに掴む。
  観客が「いい人たちだな」と思っていた前提が、一瞬で裏返る。反転の根拠（時計を見る癖）は
  序から仕込んであるので、後出しにならない。
- **落ち**は画。台車の弁当二十個。争っていた希少性そのものが嘘だった。二人は互いを見ずに
  一つずつ取る。ユウキの「あ、はい」は、口癖の三度目以降の回収。
- **規模**は1店舗、人物3人。台詞の大半が「どうぞ」の変奏なので口元の負担が小さく、
  笑いの大半はト書き（動作と間）にある。生成向き。
